
登場人物
- 天宮 朔(あまみや さく)
星詠みの探偵。36枚のルノルマンカードが示す運命の道筋を読み解き、忽然と姿を消した富豪の行方を追う。 - 橘 隼人(たちばな はやと)
ザ・ゲームメーカー。人生を「面白いか否か」で判断する天才投資家。旧知の資産家の失踪を「最高のゲーム」と捉え、朔に協力を依頼する。 - 有栖川 正臣(ありすがわ まさおみ)
IT業界の風雲児と呼ばれた資産家。完璧に整えられた書斎に、一枚の不気味なカードを残して謎の失踪を遂げる。 - 有栖川 麗奈(ありすがわ れいな)
正臣の一人娘。父の突然の失踪に絶望し、悲嘆に暮れる心優しき令嬢。 - 伊集院(いじゅういん)
有栖川家に生涯の忠誠を誓う執事。主人の安否を心から憂い、混乱している。
富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】イントロダクション
退屈は罪だ。
橘隼人はそう考えている。
億単位の数字が瞬時に動くモニターを前にして彼は深い溜息をついた。
予測通りの市場。予定調和の勝利。
そこには何の面白みもない。
その時だった。
プライベート用のスマートフォンが静かに震える。
表示された名前は『伊集院』。
橘の脳裏に銀髪を隙なく撫でつけた老執事の顔が浮かんだ。
IT長者・有栖川正臣に長年仕える忠実な番犬。
「…面白い報せを期待するよ」
橘はスピーカーフォンをオンにし戯れるように言った。
電話の向こうから聞こえてきたのは必死に冷静さを装うしかし隠しきれない動揺に満ちた声だった。
『橘様…緊急事態にございます。旦那様が、昨夜から行方不明なのです』
数時間後。
橘は有栖川家の広大な書斎に立っていた。
完璧に整頓された空間。
全てが昨夜までと変わらない。
ただ一点の異変を除いて。
黒檀のデスクの中央。
そこにポツンと置かれた一枚のカード。
描かれているのは冷たく固い『棺』の絵。
隣で伊集院が肩を震わせている。主を失った悲しみでその背中は小さく見えた。
『警察はただの悪戯だと…ですが旦那様はこのようなものを集める趣味はございません。一体何が…』
その声は純粋な混乱と悲嘆に満ちていた。
だが橘は伊集院の悲しみに少しも共感しない。
ただゲーム盤を眺めるプレイヤーのようにその光景を脳裏に焼き付けた。
これはただの失踪劇ではない。
有栖川が仕掛けた挑戦状だ。
プレイヤーである彼自身を盤上から消しこの橘隼人に次の手を促している。
「…ああ面白い」
橘の口元に久しぶりに獰猛な笑みが浮かんだ。
退屈な日常に投げ込まれた極上の謎。
最高のゲームの始まりだ。
だがこのゲームはロジックだけでは解けない。
カードに込められた非合理的なメッセージ。
運命という名のルール。
それを読み解けるプレイヤーはこの国にただ一人しかいない。
橘はコートを翻した。
「伊集院さん。警察には内密に。最高の専門家を連れてくる」
彼の脳裏には霧の中に佇む古い洋館が浮かんでいた。
『星霜邸』。
そして星々の言葉を紡ぐ神秘的な探偵の姿が。
この盤面を支配するのは果たして仕掛け人かそれとも運命か。
あるいはこの僕か。
橘は鎌倉の岬へと漆黒のスポーツカーを走らせた。
第1章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、盤上の招待状
鎌倉の霧は全てを曖昧にする。
現実と幻想の境界線を静かに溶かしていくようだ。
橘隼人は漆黒のスポーツカーを停めると霧の中に浮かぶ古い洋館『星霜邸』を見上げた。
彼が信じるのは数字とロジックだけだ。
非科学的なものに頼るのは彼の美学に反する。
だが今回ばかりは別だった。
あの『棺』のカードはあまりにも非合理的な挑戦状だ。
ならばその土俵で戦える最高のプレイヤーを招集するまで。
重い扉が音もなく開く。
橘を迎え入れたのは星々の言葉を紡ぐ探偵天宮朔だった。
薄暗い部屋の中彼女は静かな佇まいで橘と向き合う。
「退屈しのぎに付き合ってもらおうか天宮朔」
橘は人を食ったような笑みでタブレットを滑らせた。
画面には有栖川家の書斎とデスクに置かれた『棺』のカードの写真が映し出されている。
「旧知の男が消えた。現場に残されていたのはこの一枚のカードだけ。警察はお手上げだ。…面白いゲームだと思わないか?」
朔は写真に視線を落とした。
その瞳はカードの絵柄だけを見ているのではない。
その奥に潜む見えざるものの気配を探っているかのようだ。
長い沈黙。
やがて彼女は静かに口を開いた。
「…これは挑戦状ではありません」
「ほう?」
橘の眉が面白そうに上がる。
朔は橘の目をまっすぐに見据えた。
「この『棺』は終わりを告げているのではありません。むしろ新しい形への『変化』を示唆している。そして何より…このカードは独りであることを嫌っている」
「独り?」
「ええ」
朔の涼やかな声が部屋に響く。
「このカードは他の35枚の仲間を渇望している。まるでたった一つの音符が壮大な交響曲の仲間たちを求めて叫んでいるように。…橘様この事件の真実は一枚のカードでは読み解けません」
朔は窓の外霧の向こうを見つめながら告げた。
「36枚全てのカードが揃った時初めて運命の道筋が浮かび上がるでしょう。それがルノルマンカードが示す真実の姿です」
橘はゴクリと喉を鳴らした。
ロジックではない。
だが彼の怜悧な頭脳がその言葉の持つ異様な説得力を理解していた。
36枚のピースを集め一つの絵を完成させる。
なんと挑戦的で美しいゲームではないか。
「…気に入った」
橘の口元に獲物を見つけた肉食獣のような笑みが浮かんだ。
「そのゲーム受けて立とうじゃないか。君という最高のプレイヤーと共に」
彼は朔に向かって手を差し伸べる。
「さあ行こうか。有栖川邸へ。君の言う『仲間たち』が我々を待っている」
神秘の探偵と盤上を支配するゲームメーカー。
二つの異質な才能が今一つの謎へと向かい始める。
運命の絵札が一枚また一枚とその姿を現そうとしていた。
第3章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、残された道標
「書斎を拝見しても?」
朔の静かな問いに伊集院は無言で頷いた。
案内された書斎は主の不在が嘘のように完璧な空間だった。
ただあの『棺』のカードだけが証拠品として警察に押収されそこにはない。
「お父様は…もう…」
麗奈の美しい瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
その純粋な悲しみに橘でさえも少しだけ居心地が悪そうに視線を逸らした。
だが朔は揺るがない。
彼女は麗奈に向き直り静かに告げた。
「麗奈様。お父様はあなた方を決して見捨ててはいません。必ずメッセージを残されているはずです。魂のカルテがそう囁いています」
その言葉は予言であり約束でもあった。
朔は部屋の中心に立つと静かに目を閉じる。
まるで空間に残された記憶の残響に耳を澄ませているかのようだ。
やがて朔はゆっくりと目を開き壁一面を埋め尽くす巨大な本棚へと歩み寄った。
そして迷うことなく一冊の革装丁の洋書に指を伸ばす。
その本の中に二枚のカードが挟まれていた。
『道』と『船』。
麗奈と伊集院は息を呑んだ。
次に彼女が向かったのは主の寝室だった。
重厚な金庫の前に立つ。
「ここに旦那様の『決意』が眠っているようです」
伊集院が震える手でダイヤルを回すと金庫の中から二枚のカードが現れた。
『鍵』と『塔』。
書斎に戻った朔は発見した四枚のカードと橘のタブレットに表示された『棺』の写真をテーブルの上に並べた。
そしてルノルマンカード資格の神髄とも言える**【コンビネーションリーディング】**を開始する。
「まずはこちら。『棺』は終わりと変化。『道』は選択。そして『船』は旅立ちを告げています。この三枚が紡ぐ物語は…**『死を選び(死を偽装し)海外へ逃亡する』**という一つの道筋ですな」
橘の背筋に冷たいものが走った。
朔はさらに続ける。
「そしてこちら。『鍵』は解決策。『塔』は公的機関や権威を象象します。つまり**『公的機関が関わる問題の解決策』**。この二つの物語を繋げると答えは一つ」
朔は絶望に沈む麗奈と伊集院を静かに見据えた。
「旦那様は生きています。自ら姿を消したのです。警察や検察のような公的機関が関わる巨大なトラブルから逃れるために」
その言葉は雷鳴のように二人を撃ち抜いた。
「…お父様が…生きている?」
麗奈は信じられないというように呟く。
伊集院は膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪えていた。
絶望の闇に閉ざされていた彼らの世界にたった今一条の光が差し込んだのだ。
それは安堵とそして新たな希望の涙だった。
第4章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、父からの挑戦状
「信じられません…でも、ありがとうございます」
麗奈の頬を伝う涙は、もはや絶望の色ではなかった。
父は生きていた。
ただそれだけの事実が、枯れかけていた彼女の心に生命の水を注いでいく。
伊集院もまた、深く深く頭を下げた。その目には主への変わらぬ忠誠と、安堵の光が宿っていた。
希望を取り戻した彼らの行動は早かった。
「旦那様は、万が一の事態に備え、橘様にだけお伝えするようにと、私に一つの場所を託されておりました」
伊集院はそう言うと、書斎の巨大な地球儀に手をかけた。
彼が特定の箇所を操作すると、音もなく側面が開き、中からもう一つの小さな金庫が現れる。
その中には、ビロードの袋に包まれたカードの束と、一通の封筒が静かに収められていた。
封筒の宛名は、ただ一言。
『橘 隼人 様』
橘は面白そうに口笛を吹くと、封蝋を慣れた手つきで剥がし、中の便箋を広げた。
そして、そこに記された力強い文字を、芝居がかった口調で読み上げる。
「『隼人、君ならこのゲームに乗ってくれると信じていた。このカードの配列が、私を嵌めた真犯人と、動かぬ証拠の在処を示している。解読者と共に、私の最後の挑戦を受けてくれ。娘を頼む』…だとさ。やれやれ、人使いが荒い友人だ」
軽口を叩きながらも、その瞳は獰猛な輝きを放っていた。
最高の挑戦状だ。
そして、有栖川正臣という男の、娘への深い愛情の証でもあった。
麗奈は父の真意を知り、唇を噛み締めた。
父は自分たちを巻き込まないために、たった一人で戦う道を選んだのだ。
そして、その未来を最高の友人たちに託した。
「お父様…」
彼女は朔と橘に向き直り、今度は迷いのない、強い意志を宿した瞳で、深く頭を下げた。
「お願いします。父を、助けてください」
その言葉は、もはやただの依頼ではない。
共に戦う者としての、魂の叫びだった。
朔は静かに頷き、橘は不敵な笑みを浮かべた。
ゲームの盤面は整った。
全ての絵札が、今、ここに揃ったのだ。
富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、運命の設計図を読む力
天宮朔は、たった数枚のカードから有栖川の生存と逃亡という驚愕の事実を導き出した。
それは超能力ではない。
ルノルマンカード資格がもたらす、運命の設計図を読み解くための高度な技術だ。
『棺』+『道』+『船』=「死を偽装し、海外へ逃亡する」
彼女が見せたコンビネーションリーディングは、カードが持つ単語の意味を繋ぎ合わせ、一つの明確な文章として再構築する驚異の解読術。
富裕層がこの力を求めるのはなぜか。
それは、自らの未来を脅かすリスクを事前に察知し、ビジネスや人間関係における裏切りや策略の兆候を、誰よりも早く掴むためだ。
運命は時に残酷な罠を仕掛けてくる。
その罠に気づかず破滅するか、設計図を読み解き回避するか。
その差は、天と地ほどに大きい。
あなたも、その運命の言語を学んでみたくはないか。
愛する人の未来を守るために。そして、自らの人生の舵を、その手に取り戻すために。
**『ルノルマンカード資格』**は、あなたにそのための羅針盤を授けるだろう。
第5章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、運命の絵札《グランタブロー》
書斎の空気が変わった。
それまでの張り詰めた緊張が、さらに密度を増し、神聖な儀式の始まりを告げている。
天宮朔はテーブルの上にビロードの布を広げると、36枚全てのカードをその中央に置いた。
「これから、この事件の、いえ…旦那様の運命の全体像を読み解きます」
グランタブロー。
フランス語で「大きな絵」を意味する、ルノルマンカード占いの究極奥義。
36枚全てのカードを展開し、人生の縮図そのものを盤上に描き出す神聖な儀式だ。
朔は目を閉じ、深く息を吸い込む。
再びその瞳が開かれた時、彼女の纏う空気はもはやただの人間のものではなかった。
星々の言葉を紡ぐ、神託の巫女。
彼女の指が、舞うようにカードを捌き始めた。
一枚、また一枚と、カードがテーブルの上に配置されていく。
その動きには一切の迷いがない。
まるで、最初からそこに置かれることが決まっていたかのように。
橘は腕を組み、その神業を食い入るように見つめていた。
麗奈と伊集院は、祈るように手を組み、盤上に現れていく運命の絵図を固唾を呑んで見守っている。
やがて、最後の一枚が置かれた。
テーブルの上には、8枚×4列+4枚のカードが織りなす、壮大な運命のタペストリーが完成していた。
そこには、この事件の過去、現在、そして未来の全てが記されている。
朔の指が、盤面の中央に置かれた一枚のカードを静かに指し示した。
『紳士』。有栖川正臣本人を示すカードだ。
「…やはり」
朔の声は、厳粛な響きを帯びていた。
「旦那様のすぐ隣に、このカードが配置されています」
彼女が次に指したのは、鎌首をもたげる**『蛇』のカード。
そして、鋭い牙を剥く『狐』**のカードだった。
「『蛇』は裏切りを。『狐』は巧妙な策略を意味します。旦那様は、信頼していた人物に、極めて狡猾な罠に嵌められた。カードの配置が、それを明確に物語っています」
麗奈が「ああ…」と息を呑む。
盤上に現れた冷徹な真実。
だが、朔の瞳は、さらにその先を見据えていた。
絶望の闇の、その向こうにある一条の光を。
第6章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、盤上が示す真実
裏切りと策略。
グランタブローが示した冷徹な現実に、麗奈と伊集院は言葉を失った。
だが、天宮朔の瞳は絶望の色を映してはいない。
彼女の視線は、巨大な運命の絵図の中から、たった一つの逆転の道筋を探し求めていた。
やがて、彼女の指先が、盤上のある一点を静かに指し示した。
そこには、三枚のカードが運命的に隣り合って配置されていた。
馬に跨り、駆けてくる**『騎士』。
封蝋で閉じられた『手紙』。
そして、有栖川の会社そのものを象徴する『家』**のカード。
「…ここに、逆転の鍵が示されています」
朔の声が、静寂を破った。
橘が鋭い視線でその三枚のカードを睨みつける。
「どういう意味だ」
朔は橘の目を見ずに、ただカードが紡ぐ物語を代弁する。
「**『騎士』は報せをもたらす使者。『手紙』は情報やデータそのもの。そして『家』**は、この場合、旦那様の会社を指します。この三枚のコンビネーションが告げるのは…」
朔は一度言葉を切り、そして、確信に満ちた声で告げた。
「『使者が運んできた情報が、会社の中に眠っている』…と」
使者が運んだ情報。
会社の中にあるデータ。
その言葉が、橘の脳内で電光のように弾けた。
彼の思考が、常人では到達不可能な速度で回転を始める。
策略。裏切り。偽装工作。
犯人は有栖川を嵌めるために、必ず何らかの痕跡を残しているはずだ。
最も効果的で、最も彼を貶めることができる情報とは何か。
「…そうか」
橘の口から、乾いた声が漏れた。
彼は朔の顔を驚愕の表情で見つめる。
「内部告発だ。犯人は、有栖川のPCから、彼自身が粉飾決算を告発するかのような偽装メールを、捜査機関に送ったに違いない!」
朔は静かに頷いた。
「星々の配置が、それを肯定しています」
「そしてそのデータは!」
橘は拳をテーブルに打ち付けた。
「会社のサーバーの中に、今も眠っているはずだ!犯人が巧妙に消したつもりでも、デジタルの痕跡は完全には消せない!」
神秘が示した道標。
それをロジックが具体的な座標へと変換した瞬間だった。
麗奈の顔に、驚きと、そして確かな希望の色が浮かび上がる。
「では、お父様の無実を証明できるということ…!?」
「ああ」
橘は不敵な笑みを浮かべ、スマートフォンを取り出した。
「ゲームは最終盤だ。ここからは、僕の専門分野でね。…チェックメイトの時間だよ」
彼の指が、漆黒の画面の上を滑る。
その電話の相手は、盤上の全てをひっくり返す、最強の切り札だった。
第7章:富-裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、ゲームメーカーの逆襲
橘隼人の電話は、たった一言で終わった。
「螢?面白いゲームがある。5分だけサーバーの扉を開けてくれ。…ああ、いつもの場所だ」
電話の向こうにいる相手が誰なのか、朔は問わない。
ただ、電話を終えた橘の纏う空気が、怜悧な投資家から冷酷な支配者へと変貌したのを静かに感じていた。
それから、わずか数分後のことだった。
橘のノートパソコンに、一本の通知が届く。
ディスプレイに映し出されたのは、暗号化されたメールの送信ログ。
発信元は有栖川正臣のID。
宛先は、東京地検特捜部。
そしてその日時は、有栖川が失踪したとされる、まさにその夜だった。
「…ビンゴ」
橘は獰猛な笑みを浮かべた。
そこには、粉飾決算の全てを自らが主導したと告白する、完璧に偽造された「自白メール」が存在した。
朔がグランタブローで読み解いた**『騎士』と『手紙』**の正体。
これこそが、有栖川を社会的に抹殺するための、真犯人が放った毒矢だった。
だが、橘の指は止まらない。
彼が雇った天才ハッカーは、その毒矢に付着していた「指紋」までも見つけ出していた。
メールが送信されたPCのIPアドレス。
それは有栖川のものではなく、会社のサーバーを経由し、巧妙に偽装されていた。
そしてその大元を辿ると、一つの場所にたどり着く。
共同経営者であり、会社のNo.2である男の、個人端末へと。
「チェックメイトだ」
橘は、その動かぬ証拠のデータを、瞬時に複数のメディア関係者と、旧知の警察関係者へと匿名で送りつけた。
警視庁の氷川聡が、自席で眉をひそめながらそのデータを開く姿を幻視する。
橘はただ犯人を告発するだけでは終わらない。
マスコミという外部の力を利用し、警察が動かざるを得ない状況へと追い込む。
世論を味方につけ、逃げ道を完全に塞ぐ。
盤面そのものを支配する、彼ならではの冷徹な戦略だった。
「…見事な、お点前ですな」
朔が静かに呟いた。
「君の魔法ほどじゃないさ」
橘はパソコンを閉じ、不敵に笑う。
「君が運命の道筋を示し、僕が現実を動かす。…なかなか、悪くないコンビだ」
二人の天才の共闘が、今、巨大な悪意を白日の下に晒そうとしていた。
夜明けは、もうすぐそこまで迫っていた。
第8章:富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、夜明けのコンタクト
全ては橘隼人の描いた筋書き通りに進んだ。
匿名で送りつけられた決定的証拠に、メディアは色めき立ち、警察は動かざるを得なかった。
世論という最強の圧力釜の中、共同経営者の犯行は瞬く間に暴かれ、彼は失墜した。
IT業界を揺るがした電撃的な幕切れ。
人々はそれを「ゲームメーカーの神の一手」と噂したが、その裏に36枚の絵札と星詠みの探偵がいたことを知る者はいない。
事件が解決へと向かう喧騒の中、有栖川邸には静かな夜明けが訪れていた。
麗奈は眠れずにいた。
父の無実は証明された。だが、彼の行方はまだ分からない。
不安と希望が入り混じる中、テーブルの上に置かれたスマートフォンが、静かに、しかし力強く震えた。
非通知設定の国際電話。
麗奈は震える指で通話ボタンを押した。
耳に当てたスピーカーの向こうから、ノイズ混じりの、しかし紛れもない懐かしい声が聞こえる。
『…麗奈か?』
「お父様…!」
麗奈の瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
『…すまなかったな。そして…ありがとう』
父の声は疲れていた。だが、その奥には確かな安堵と、未来への意志が宿っていた。
「ううん…ううん…!早く帰ってきて…!」
『ああ。全てを片付けたら、必ず。…隼人たちによろしく伝えてくれ』
電話は、それだけですぐに切れた。
だが、その短い会話は、麗奈と伊集院の心に、どんな宝石よりも温かい光を灯した。
失われた時間は、きっと取り戻せる。
同じ頃、橘は自らのオフィスの窓から、白み始めた空を眺めていた。
「やれやれ、後味の悪いゲームではなかったな」
彼はそう呟くと、極上のエスプレッソを静かに口に含んだ。
人の心が絡むゲームに、完全な勝者はいない。
だが、守るべきものを守り抜いたという確かな手応えが、彼の胸を満たしていた。
富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】エピローグ
事件の喧騒が遠い過去のように静まり返った頃。
鎌倉の『星霜邸』に、一つの豪奢な木箱が届けられた。
差出人は、橘隼人。
中には、最高級のヴィンテージワインと、一枚のカードが添えられていた。
『実に面白いゲームだった。君の魔法には驚かされたよ。これは報酬だ。また退屈したら、君にゲームを申し込みに行く』
朔はその手紙を静かに読むと、ワインには目もくれず、自らのために一枚のカードを引いた。
現れたのは、馬に跨り、新たな知らせを運んでくる『騎士』のカード。
「…次の依頼人が、もうすぐ扉を叩くようですな」
朔は静かに呟き、カードをテーブルに置いた。
彼女の瞳には、未来の盤面が映っているのか。
あるいは、遠い過去の因縁か。
運命のカルテは、決して終わりを告げない。
月の光だけが、その神秘的な横顔を静かに照らしていた。
富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】、運命の設計図を読む力
橘隼人のロジックと天宮朔の神秘。
二つの力が融合し、絶望的な盤面は鮮やかに覆された。
その全ての始まりは、36枚のカードが織りなす運命の設計図**『グランタブロー』**にあった。
朔は、そこに描かれた『蛇』の裏切りを見抜き、『騎士』と『手紙』のコンビネーションから逆転の鍵を導き出した。
ルノルマンカード資格とは、単に未来を当てるだけの技術ではない。
それは、複雑に絡み合った運命の糸を解きほぐし、問題の**「構造」**そのものを可視化する、究極のプロファイリングツールなのだ。
真の富裕層は知っている。
成功とは、見えざるリスクをいかに早く察知し、対処できるかにかかっていることを。
部下の裏切り、取引先の策略、プロジェクトに潜む致命的な欠陥。
それらの兆候は、必ず運命の盤上に「絵札」として現れる。
あなたはそのサインを読み解き、自らの未来を守る準備ができているだろうか。
人生という名の、決して負けられないゲーム。
その盤面を支配するための最強の知性が、ここにある。
**『ルノルマンカード資格』**を学び、あなたも運命の解読者となれ。
【編集後記】運命の絵札、グランタブロー
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
『【星詠みのカルテ File.4】運命の絵札《グランタブロー》|富裕層が学ぶ【ルノルマンカード資格】の運命解読術』、いかがでしたでしょうか。
いやはや、今回は痺れましたね。
我らが星詠みの探偵・天宮朔と、あの天才ゲームメーカー・橘隼人の初共演!
ロジックと神秘、決して交わらないはずの二つの才能が、一つの事件を解決へと導く様は、まさに圧巻でした。
そして、今回登場した**『ルノルマンカード資格』の奥深さ。
特に36枚全てのカードを展開する『グランタブロー』**の場面は、書いている私も鳥肌が立ちました。
カード一枚一枚が持つ意味が、組み合わさることで壮大な物語を紡ぎ出す。
まさに運命の設計図。
「私もこの設計図を読んでみたい!」と思っていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。
この 『星詠みのカルテ』は、怜の『14の資格を持つ女』、栞の『月影庵の事件簿』、そして九条の『帝国の羅針盤』、神楽坂雅の『外交官の遊戯』と、同じ時間軸で進行しています。
5つの物語が、これからどう交錯していくのか。ぜひ、全ての視点からお楽しみください。
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天宮朔の世界へ
あなたの運命のカルテを紐解いてみませんか?星々の叡智が記されたもう一つの事件簿がここに…
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ワイングラスに映る嘘、懐中時計に刻まれた記憶。真の豊かさは、五感で真実を見抜く「感性の投資」にこそ宿る。
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富裕層が学ぶ資格【文化・ホスピタリティ編】品格を磨く15選
花一輪で空間を制し、墨一筆で心を映す。富の先にある、真の品格をその身に纏うための、15の美しきおもてなしがここにある。